注文住宅設計の中でも特に「施工会社に丸投げ」状態になってしまう電気工事。これを知らないだけで将来10万円以上も損をしちゃうかもしれない!?という重要な情報をお届けします。また、損しないための裏ワザ(魔法のひとこと)もあわせてご紹介します。
魔法のひとこと
まず初めに結論 :将来10万円以上損しないための裏ワザ(魔法のひとこと)をご紹介します。
そのひとこととは
「幹線ケーブルを14sq(スケ)以上にしてください」
です。これは電力会社から受電している受電点から宅内の分電盤までの間の電気ケーブル(幹線ケーブル)の太さを通常よりも太いものにしてもらうということです。 この言葉の意味や、なぜこれで得するのか、またこの言葉を使うタイミングなどについて以降で詳しく説明していきます。
10万円以上損してしまうってどういうこと?
・住み始めた後に家族が増える、オール電化に変更するといった変化によって電力使用量が増加する
・既存のブレーカー容量では小さすぎて頻繁にブレーカーが落ちる(トリップする)
といった理由により、ブレーカーをより大きな電流を流せるものに取り換えるケースはよくあります。このときには宅内分電盤のメインブレーカーを取り換えることになります。しかし、取り換え後のブレーカー容量に対して既存の幹線ケーブルの太さが細すぎる場合には、ブレーカーだけでなく幹線ケーブルごと取り換えなければなりません。住宅において、一度敷設したケーブルを取り換えるのは容易ではなく、壁や天井を剥ぐ必要がある場合が多く、そうなると10万円以上の余計な工事費がかかることになります。今回ご紹介する裏ワザは、この「将来のケーブル引き直し」を避けることを狙ったものです。
余談ですが、私の本業であるプラントエンジニアリングでは、「プロビジョン」という思想がとても重要です。はじめから将来の設備/生産の変化を見越して、設計に織り込むことで、変化に対して柔軟(コストミニマム、改造ミニマム、工期ミニマム)に対応できるようにしておくという考え方です。今回の裏ワザはまさにこの「プロビジョン」の考えから来た発想です。
普通のケーブルサイズはどのくらい?
お城のような大豪邸や特殊な用途で大電力を使用するご家庭の場合は別ですが、一般的な住宅の場合、何も指定しなければ幹線ケーブルは8sqで配線されることが多いかと思います。また、最初からオール電化で計画している場合は、電力使用量が多いことが分かっているため14sqで施工されるケースが多いようですが、設計段階で確認するようにしましょう。14sqあれば家庭における大抵の電力使用は賄えるかと思います。
なんで8から14に飛んだの?と思われた方がいらっしゃるかもしれませんが、ケーブルサイズは
・・・, 3.5sq, 5.5sq, 8sq, 14sq, 22sq, 38sq, 60sq, 100sq,・・・
とJIS規格で決まっています。ちなみに「sq(スケ)」はmm2のことで、ケーブルの断面積を表しています。
ケーブルが太いと何がいいの?
ケーブルを太くすることにはいくつかのメリットがあります。
- 流せる電流が大きくなる
ケーブルの太さによって流せる電流量が決まっています(許容電流)。太くなるほど流せる電流は大きくなるため、大きなサイズのブレーカーに対応できます。 - 電圧降下が少なくなる
電流を流した際に、ケーブル自体が持っている電気抵抗により、電位差というものが発生します。この電位差により、必ず受電点の電圧よりも分電盤の電圧の方が若干低くなります。このことを「電圧降下」と呼びますが、ケーブルが太いほど電気抵抗が小さくなり、ケーブル端間で発生する電位差は小さくなるため、電圧降下が小さくなります。電圧降下が少ないほど電源品質が良いといえます。 - 電力損失が少なくなる
電圧降下の話と似ていますが、ケーブル自体が持っている電気抵抗により、電流を流した際に必ず抵抗熱による電力損失が発生します。電力損失はケーブルの電気抵抗値に比例するため、同じ電流を流した時にケーブルが太いほど電力損失が小さくなります。この電力損失は、電力会社から購入した電力が単純に抵抗熱として放出されている(電力を捨ててしまっている)状態ですので、電力損失が小さければ小さいほど電気代がお得です。
ただし、際限なく太くすれば良いというものではなく、次のような点にも注意が必要です。
- ケーブルの値段が上がる
ケーブルを太くするということはケーブルの主材料である銅の体積が増えるということです。宅内工事のたかだか10~20m程度であれば8sqと14sqの価格差は数千円~1万円程度ですが、工場建設などのように数百メートル引っ張ったり、太さ100sqを超えるようなケーブルを扱ったりする場合にはかなりの金額ボリューム(数百万円~数千万円)になることもあります。 - ブレーカーの端子には太さの制約がある
幹線ケーブルを繋ぎこむブレーカーの端子部分にはサイズ制約があります。太くしすぎるとブレーカーに繋げなくなってしまうので、使用するブレーカーの寸法についても確認しておく必要があります。
14sqで何アンペアまで流せるの?
ケーブルの種類やケーブル同士の離隔距離、周囲温度等の条件により流せる電流の大きさが決まっていますが、最も一般的なCVケーブル/CVTケーブルを一般的な施工方法で施工した場合、それぞれ以下のようになります。
8sq | 14sq | 22sq | |
CVケーブル | 72[A] | 100[A] | 130[A] |
CVTケーブル | 62[A] | 86[A] | 110[A] |
※施工条件:単芯×3本、気中配線、離隔距離 = 2×ケーブル直径周囲温度40℃
オール電化でない場合、一般的な電力会社との契約は「従量電灯プラン」と言ってメインブレーカーの大きさで基本料金が決まってきます。通常、従量電灯プランのアンペア数は60[A]以下ですので、8sqあればギリギリ60[A]のブレーカーを取り付けることができます。一方オール電化の場合は実量制契約といって、メインブレーカーの大きさではなく実際に使用したピーク電力量で基本料金が変わってきます。オール電化では60[A]でも足りないケースがよくありますので、75[A]や100[A]のブレーカーを設置するケースもあります。こうしたことを考えると、やはり幹線ケーブルは14sq以上の太さにしておくことが望ましいといえます。
ケーブルの許容電流を超えたまま使用していたらどうなる?
ケーブルの種類や施工方法、周囲温度等により許容電流が決まっていることを説明しましたが、もし仮に過負荷状態や回路の短絡によりケーブルの許容電流を越えた電流を流し続けると
最悪の場合ケーブルが発火します。
ケーブル自体は燃えにくい素材でできているのですが、火が付くまで温度が上がり一度発火してしまうともう消火は難しいと思ってください。
本来はそういったことがないように
ブレーカーの遮断電流<ケーブルの許容電流
という設計になっており、電流が流れすぎた場合にはブレーカーで電源を遮断しますが、後からオール電化に変更する場合には特に注意が必要です。
魔法のひとことを伝えるタイミングは?
ケーブルサイズの変更を伝えるのは設計打ち合わせ中~電気工事着工前のタイミングにしましょう。電気の配線工事が終わるとすぐに断熱材や壁材を打ちますので、その段階でケーブルを引き直すとなると、一度壁材を外してから再度ケーブルを敷設するか、古いケーブルを残置したまま新しいケーブルを引くしかなくなります。
誰に伝えればいいの?
工事監督に伝えるのがおすすめです。設計打ち合わせ中に建屋の設計担当(建築士)に伝えても良いかと思いますが、私の経験上、建築士は電気工事にあまり詳しくありません。結局建築士に伝えても建築士⇒工事監督⇒電気工事士と伝達されるだけですので、変に間違った情報が伝わることをさけるためにも工事監督に直接相談しましょう。(我が家の場合は電気工事士と現地で直接話し合って決めました)
料金はかかるの?
ケーブルを太くすると当然材料費が増えますが、一般的な住宅の幹線ケーブルであれば1サイズ上げたとしても差額は数千円~1万円程度ですので、工事予算の中で吸収してもらえる範囲だと思います。(我が家の場合も追加費用なしで14sq⇒22sqに変更してくれました)
追加費用を請求される場合でも、初期投資としては有意義でしょう。そのうち詳しく計算してみますが、ケーブルを太くすることによる電力損失の改善効果(電気料金削減)により、数年で十分回収できると思います。
まとめ
将来ブレーカーのサイズを変更することになり、幹線ケーブルまで引き直すことになると、ブレーカー交換費用とは別に10万円以上の工事費がかかることがあります。このケーブル引き直し費用は魔法のひとこと「幹線ケーブルは14sq以上にしてください」で回避することができます。
大きなブレーカーに対応できるようにあらかじめ幹線ケーブルを14sq以上にしてもらいましょう。この要望は電気工事が始まる前のタイミングで、工事監督に伝えるのが良いでしょう。
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